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中野 明安

豪雨災害の季節を終えて
― 今こそBCPの点検と見直しを

2026/10/30

豪雨災害の季節を終えて
― 今こそBCPの点検と見直しを

「被害がなかった」ことと「備えが十分だった」ことは違う

 10月を迎え、豪雨災害が特に懸念される時期をおおむね過ぎました。もっとも、近年は季節を問わず大雨が発生することもあり、引き続き警戒は必要です。豪雨災害は、事業所の浸水や停電だけでなく、交通機関の運休、物流の停滞、取引先の被災など、企業活動にさまざまな影響を及ぼします。
 今年、幸いにも被害を受けなかった企業も多いことでしょう。しかし、被害がなかったからといって、防災対策や事業継続計画(BCP)が十分だったとは限りません。例えば、大雨警報や暴風警報などが発表された際、従業員の出勤の要否を誰が判断することになっていたでしょうか。公共交通機関の計画運休が発表された場合の対応は明確だったでしょうか。問題が生じなかったのは、単に深刻な状況に直面しなかったからかもしれません。被害がなかった今こそ、自社の備えを振り返る好機です。

従業員の安全確保と事業継続を両立させる

 企業は、労働契約法第5条に基づき、従業員に対する安全配慮義務を負っています。自然災害に際しても、危険の予見可能性や回避可能性などに応じた対応が求められます。河川の氾濫や土砂災害のおそれが高まった場合、出勤を求めるのか、帰宅を指示するのか。こうした判断を現場任せにせず、あらかじめ判断基準と権限を明確にしておく必要があります。
 一方、医療、福祉、物流、社会インフラなど、災害時にも業務継続が求められる事業があります。しかし、従業員の安全を犠牲にしてよいわけではありません。継続すべき重要業務を絞り込み、交代要員や応援体制、安全な宿泊場所、食料・飲料水などを確保しておくことが重要です。また、従業員の家庭の事情や心身の健康にも配慮し、必要に応じて業務を縮小・停止できる体制も欠かせません。
 事業継続とは、従業員に無理を強いることではなく、その安全と健康を守りながら、必要な業務を維持することです。

今こそBCPの「小さな改善」を

 BCPの見直しは、大規模な訓練や計画全体の改訂から始める必要はありません。まずは今年の豪雨対応を振り返り、担当者や従業員で意見交換をしてみてはいかがでしょうか。
 例えば、次のような点です。
・出勤・帰宅や業務の中断について、判断に迷うことはなかったか。
・帰宅困難となった場合の対応策は用意されていたか。
・従業員への連絡や安否確認に支障はなかったか。
・取引先との連絡・連携に問題はなかったか。
 こうした問いかけから、改善すべき課題が見えてきます。大切なのは、見つかった課題について、誰が、いつまでに、何を改善するのかを決めることです。
 BCPは策定することが目的ではありません。小さな改善を積み重ね、いざというときに機能する計画へと育てていくことが最も重要です。

被害がなかった今だからこそ備える

 豪雨災害の季節が過ぎても、地震、火災、大雪、感染症など、企業が備えるべきリスクは数多くあります。災害の種類は異なっても、情報収集、意思決定、安否確認、代替業務体制の確保など、共通する課題は少なくありません。
 「災害が起きなかったから安心」ではなく、「被害がなかった今だからこそ備える」。
今年の経験を次の備えにつなげるために、まずは自社のBCPを開き、一つでも具体的な改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。

※追伸:BCPに関するご相談と新刊のご案内
 このたび、第一法規より『法律事務所のBCP―防災にとどまらない法律事務所だからこそ備えるべき事業継続計画』を刊行しました。法律事務所を題材としていますが、内容は法律事務所だけに限られるものではありません。従業員の安全確保、災害時の意思決定、業務継続体制の整備など、幅広い企業・団体のBCPにも役立つ内容となっています。ご関心のある方は、ぜひお手に取っていただければ幸いです。

 また、皆様のBCPに関する各種ご相談もお受けしています。BCPの策定や見直し、災害時の従業員の安全確保など、どのようなことでもお気軽にご相談ください。初回30分は無料で対応いたします。ご希望の方は、私宛て、または丸の内総合法律事務所までメールでご連絡ください。

(弁護士 企業防災ガバナンス・アドバイザー 中野 明安)

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