Q-2(出勤停止措置と休業手当支払いの要否)

Q-2(出勤停止措置と休業手当支払いの要否)

以下の各場合に、事業者が労働者に対して新型コロナウイルス対策として出勤停止を命じる場合には、使用者は休業手当を支払う必要があるのでしょうか。
①新型コロナウイルス罹患者・罹患している疑いがある者(疑似症患者)
②同居の家族が新型コロナウイルスに罹患した従業員その他濃厚接触者
③自主的に、不要不急の事業を縮小する場合の当該事業に従事する従業員
④政府や地方自治体の要請に応じて不要不急の事業を縮小する場合の当該事業に従事する従業員

A-2

①の場合

罹患者に対しては休業手当を支払う必要がありません。

疑似症患者に対して使用者の自主的判断で休業させる場合には、休業手当を支払う必要があります。

②ないし④の場合

使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、努力を尽くしたとはいえない場合には、休業手当を支払う必要がある場合があります。

(解説)

(1) 総論

上記の基準により賃金請求権が失われる場合であっても、労働基準法26条に定める休業手当の支払いを免れない場合があります。すなわち、同条は「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合」においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の60%以上の休業手当を支給しなければならないと定めるところ、この「使用者の責めに帰すべき事由」の意義についてノースウエスト航空事件判決(最高裁昭和62年7月17日判決)は次のように判示しています。

「『使用者の責に帰すべき事由』の解釈適用に当たっては、いかなる事由による休業の場合に従業員の生活保障のために会社に前記の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならない。このようにみると、右の「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法第536条第2項の『債権者の責めに帰すべき事由』よりも広く、会社側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。」

つまり、会社が休業手当を支払わなければならない「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合」には、故意、過失又はこれと同視すべき事由による場合にとどまらず、「使用者側に起因する」事由による場合を広く含むとされているのです。

(2) 罹患者・疑似症患者の場合(①)

①の新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません(厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」[1])。

新型コロナウイルス罹患者と診断されていない場合でも、発熱等の諸症状により、新型コロナウイルスに罹患している疑いがある場合(疑似症患者)については、厚生労働省は、風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合、強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合には、最寄りの保健所などに設置される「帰国者・接触者相談センター」に問い合わせをするよう要請しています。また、高齢者、糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)の基礎疾患がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方で、これらの状態が2日程度続く場合も同様です。

「帰国者・接触者相談センター」での相談結果を踏まえても、職務の継続が可能である場合について、使用者の自主的判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があるとされています(厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け))。

(3) ②ないし④の場合

この場合については、休業手当の支払いを免れない場合があります。

新型コロナウイルスの流行は、地震等の天災事変と比較し、事業者の予測可能性が格段に高い上、現時点においては、官公庁等から事業者が新型コロナウイルスの流行状況を予測し、それへの対策を立てるために必要な情報も提供されている状況にあります。このような新型コロナウイルスとその対策の特質を踏まえた場合、新型コロナウイルス対策の一環として出勤の停止を命じた労働者に対して、「労働者の生活保障」を犠牲にしてもなお休業手当をも支給しないことが許容される場合は、極めて限定された場合に限られると言わざるを得ないものと考えられます。すなわち、事業者が休業手当をも支給しない場合というためには、天災事変等と類似するような、より高度の必要性のある(避けがたい)事業縮小又は出勤停止措置であることと当該措置の相当性が要件になると解されます。例えば、事業者が十分な感染防止策を講じ、かつ、十分な事業継続計画を策定しそれを実行していたにもかかわらず、労働者の大多数が新型コロナウイルスに罹患して欠勤したために他の労働者による労働が全く無意味となったためにその労働者に対して出勤停止を命じるような場合には休業手当は不要と解されます。

また、厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」においても、「休業手当の支払いについて、不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありません。」としているものの、「例えば、海外の取引先が新型コロナウイルス感染症を受け事業を休止したことに伴う事業の休止である場合には、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要がある」とし、「使用者の責に帰すべき事由」といえないためには、使用者としての休業回避のため努力を尽くすことが必要と解されています。

[1]https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q3-3

INFORMATION

丸の内総合法律事務所
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-2-1 岸本ビル815区
電話:03-3212-2541 FAX:03-3284-1188
アクセス(Google Map)  お問合せフォーム

CATEGORIES

最近のセミナー・著作情報

ページ上部へ戻る