Q-5(事業継続のための出勤命令に対する年休権の行使と時季変更権の行使)

Q-5(事業継続のための出勤命令に対する年休権の行使と時季変更権の行使)

Q-4に従い、使用者が十分な感染防止策を講じた上で労働者に出勤して重要業務に従事することを命じたところ、労働者が年休権を行使した場合、使用者は時季変更権の行使ができるのでしょうか。

A-5

一定の場合には、時季変更権の行使をすることができると考えられます。

(解説)

使用者の対応としては、事前に、就業規則などにおいて労働者による有給休暇の時季指定を一定日ないし一定時間前までになすべきこと定めておくことが考えられますが[1]、パンデミック期においては、たとえ数日前に年休権の行使がなされたとしても、使用者は代替要因の確保が困難な場合が通常だと考えられます。

このような場合、使用者が時季変更権を行使できるのは、「事業の正常な運営を妨げる場合」です(労働基準法39条5項)。ここで「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するのは、当該労働者の年休取得日の労働がその担当業務を含む相当な単位の業務(課の業務・係の業務等)の運営にとって不可欠であり、かつ代替要員を確保するのが困難である場合です。後者の代替要員の確保の困難性については、「使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にある」場合には、代替勤務者を確保すべく配慮することが要請されることに注意が必要です(最高裁平成元年7月4日判決民集43巻7号767頁・電電公社関東電気通信局事件)。

新型コロナウイルスが蔓延し、そのために欠勤者が相当程度発生したという状況において、重要業務への適任者をその業務にあたらせる場合にあっては、ほとんどの場合において、時季変更権の行使が認められるものと考えられます。

なお、使用者が時季変更権を行使する際には、具体的な欠勤可能日を指定することが望ましいことはいうまでもないですが、必ずしもそうしなければならないというわけではなく、労働者に対し、年休権の行使を「承認しない」という意思表示を行うことも、時季変更権の行使にあたります(上記電電公社此花電報電話局事件)。

[1] 最高裁昭和57年3月18日判決民集36巻3号366頁(電電公社此花電報電話局事件)は、就業規則に、年休の請求は「原則として前々日の勤務終了時まで」になすべきものと規定されていた事案について、この「就業規則の定めは、年次有給休暇の時季を指定すべき時期につき原則的な制限を定めたものとして合理性を有し、労働基準法三九条に違反するものではなく有効である」と判示しています。

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