Q-6(重要業務継続のための労働時間延長)

Q-6(重要業務継続のための労働時間延長)

パンデミック期には、多数の労働者が欠勤することが想定されますが、就業可能な労働者について労働時間を延長する措置をとることはできますか。

A-6

36協定を締結した場合には、限度時間までの延長が可能です。また、36協定に特別条項を設けることにより限度時間を超える時間の労働時間の延長が可能です。

(解説)

(1) 限度基準

周知のように、労働時間は1週間に40時間、1日に8時間以内と定められていますが(労働基準法32条)、使用者が労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者との間で36協定を締結し、それを労基署に届け出た場合には、限度時間まで延長することができます(労基法36条)。働き方改革関連法[1]によって、限度時間について、1か月45時間、1年360時間と法定されました(労基法36条4項)。また、変形労働時間制で対象期間3か月超と定める場合は、1か月42時間かつ1年間320時間が限度時間となります(同行括弧書)。なお、これらの時間には休日労働は含み、違反した場合には罰則の対象となります(労基法119条1号、32条)。

(2) 特別条項

しかしながら、新型コロナウイルスへの感染等により多数の労働者の欠勤があった場合、重要業務の継続のためには、このような限度時間のみでは対応できない場合も想定されます。このような場合には、36協定において労働時間延長についての特別条項を設けておけば、臨時的な特別事情がある場合には、下表のとおり上記の限度時間を超えることが認められます(労基法36条5項、6項)。なお、これらの上限については、労基法32条違反とは別に罰則が科されることとされています(労基法119条1号、36条6項)

上限 内容
①年間の上限(労基法36条5項) 休日労働を除き、720時間以内
②1か月の上限(労基法36条5項、6項2号) 休日労働を含め、100時間未満

 

③連続月の平均の上限(労基法36条6項3号) 休日労働を含め、連続月(2~6か月)について平均80時間以内

 

以上の上限については、以下のとおり36協定の締結単位である事業場単位の上限規制と個々の労働者単位の上限規制として下記のとおり整理することができます。

事業場単位の上限規制
・1か月につき100時間未満を上限として、時間外労働及び休日労働をさせることのできる時間を36協定に定めることができる

・1年間につき720時間以内を上限として、時間外労働をさせることができる時間を36協定に定めることができる

・36協定に特別条項を適用することができる月数につき、6回以内を上限として定めなければならない

個々の労働者単位の上限規制
・1か月について時間外労働及び休日労働をさせた時間は100時間未満でなければならない

・対象期間の初日から1か月ごとに区分した各期間について、当該各期間の直前1か月、2か月、3か月、4か月及び5か月の期間を加えたそれぞれの期間における時間外労働及び休日労働をさせた時間の1か月当たりの平均が80時間を超えないものとしなければならない

 

こうした特別条項を設けるためには、「通常予見できない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に・・・限度時間を超えて労働させる必要がある場合」である必要があります。これについて、通達(平成30年12月28日基発15号)では、「全体として1年の半分を超えない一定の限られた時間において一時的・突発的に業務量が増える状況等により限度時間を超えて労働させる必要がある場合をいう」としています。新型コロナウイルスの流行は、一時的に発生する事態であって、重要業務の継続のために労働者に出勤を求める期間は、1年の半分を超えないことが見込まれると考えられます。よって、パンデミック期に重要業務を継続するために、36協定において特別条項を設け、労働者の労働時間を延長することが可能であると考えられます。

(3) 非常事由による時間外・休日労働

仮に、36協定にこのような特別条項を設けなかった場合は、使用者は、「災害その他避けることのできない事由」がない場合でなければ、労働者に対し、36協定に定めた労働時間以上の時間の労働を命じることができません(労基法33条1項)。しかしながら、「災害その他避けることができない事由」とは、業務運営上通常予想し得ない事由、及び、一応そのような事由の発生が予想し得る事態ではあるが、それが発生するか否か、いつ発生するかが確定的には予想できない事由をいうと解すべきです。官公庁から新型コロナウイルスの蔓延とその予測についてある程度確度の高い情報が提供されている現段階においては、新型コロナウイルスの蔓延が「災害その他避けることのできない事由」にあたると解することは困難であると考えられます。

[1] 限度時間及び特別条項の改正については、大企業については2019年4月1日から、中業企業については2020年4月1日から施行されます(改正附則1条・3条)。

 

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